日本国内での電子書籍ビジネスに対する提言
最近、作家や漫画家が自炊代行業者に対する差し止めの訴えを起した。
■東野圭吾氏ら作家7人、書籍スキャン“自炊”代行業者を提訴
ここでの「自炊」とは、紙の本をスキャナーで読み取ってデジタルデータにして、電子書籍リーダーやパソコン、携帯で読めるようにすること。
(こんなごつい裁断機で本をバラバラにします。これは自炊をする人に最も売れているプラスの断裁機PK-513L。A4幅の本が裁断可能。光で切る場所が確認出来るスグレモノ。3万円くらいします。)
(こんな機械を使って読み取ります。これは自炊する人の中で最も売れてるスキャナーで富士通のScanSnap S1500。4万円くらい。)
(こんな本がいくつも出ているので、簡単に出来てしまいます。時間はかかりますが。)
これに対して、ネットに近い人たちには、権利者側に対して厳しい意見が多い。
しかし、その中で自炊代行業者に対する批判については、この意見に同意。
■自炊代行提訴についての雑感 --- 玉井克哉
ここで述べられているのは、下記の通り。
・自炊代行業者に本を送る。
・代行業者は本を裁断してスキャンしてデータを依頼者に送る。
ここまでは問題ない。
では、同じ本が送られて来たら代行業者はどうする?
・依頼者ごとに本を裁断し、スキャンし直して、別々のデータをそれぞれの依頼者に送る非効率なことをするとは思えない。
・一度データ化した本は、二番目以降の依頼者には同じデータを送るのが普通だ。
・つまり、「自炊代行」業者というのは、実は限りなくデジタルデータ販売業に近い。
さらに話は続きます。
・多数の注文を受ける業者には、倉庫には裁断用に送付された書籍が大量に積み上がる。それはどうなるのか?
・本来裁断用だから、廃棄するのが妥当。
・産業廃棄物として、業者に引き取られた本はどうなるのか?古本屋に持っていって、売ることになる。
・誰かが1冊の本を「自炊代行」に出すと、市場にはもう1冊のコピーが出回ることになり、この時点で既に作者に影響がないとはいえない。
こう書くと、「そうならないように作家側は早く電子書籍化を認めればいい」と言うかも知れない。
しかし、電子書籍化するにも権利者側にメリットがない契約書しか出版社が出してこなければ電子化はされない。わざわざ自分に不利な契約書を慌てて結ぶ必要はないのは当然である。
そうは言っても、この流れは変えられない。
黙っていても、合法・違法の別を問わず、デジタル化された書籍データの拡散は進む。
裁判で勝って、代行業者を無くしたとしても、データを消せやしない。
そこで提言をしたい。
作家側も反対や抗議だけでなく、電子書籍化に向けた契約書案を自ら提示してはどうか?
「この条件であれば電子書籍化を認める」というものを、世の中に示せばいい。
その内容が妥当であれば、支持を得られるし、その条件で契約を締結する事業者も出て来るだろう。
「これからは電子書籍だ」と様々な企業が雨後の竹の子のように電子書籍ビジネスに参入している。
これらは、AppleやAmazonといった海外のデジタルコンテンツ販売のビジネスモデルを「成功事例」として模倣しただけの形でしかない。小規模な劣化コピーみたいなものが束になっても、本家本元の強力な海外勢が参入してくれば、ひとたまりもない。
形だけをまねても、本質を理解していないから、国内勢のサービスが上手くいくことはないだろう。
国際標準になるなど、夢のまた夢。
自分なら、作家の立場に立って、著作物を電子書籍化する際のアドバイザーと代理人ビジネスをやる。出版社は、自分たちに有利な紙の出版物をベースにした既得権を手放さない限り参入は出来ない。紙がメインである限り、思い切って動けないはずだ。
その間にデジタル分野において出来るだけ多くの流通網を確保出来れば、海外の事業者がやって来ても、それは強力な販売チャネルが増えるビジネスチャンスとなる。
本質を考えれば、ここを押さえることに注力するしかない。それ以外で今の国内企業では、海外勢とは戦えない。
出版社のしがらみのない業界が参入し、明日の業界標準を押さえるチャンスなのだが、権利者である作家を個別に当たらないといけない煩雑さを敬遠してか、国内企業からまだその動きは見えない。
エンターブレイン
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