宅配制度と電子新聞事業の二律背反性について
今日の気になったニュース。
■「新聞の印刷・宅配をやめ、電子端末を無料配布せよ」が現実に。米書店大手バーン
ズ&ノーブルがニューヨーク・タイムズ購読者にタダで電子端末「ヌック」を提供
「バーンズ&ノーブル」と言えば、日本だと紀伊國屋書店みたいなものだろうか?
そこがニューヨーク・タイムズの購読者にタダで電子端末「ヌック」を提供したという
話。
単に電子書籍端末をバラまいたのではなく、本屋が新聞販売店の機能を担うようになっ
たというのがおもしろい。
紀伊國屋書店が日経新聞の電子版を電子書籍端末とセットで売り出したようなものだ。
考え方としてはおもしろいし、ネット企業に属する身としては、そういうサービスを作
ってみたいと思う。
この記事を読むと、
「日本も新聞の宅配コストは高いから、同じようにすれば、新聞は安くなるし、新聞社
は利益をもっと上げられるはずだ!」
と思うだろう。
そこでちょっと調べてみた。
日本において新聞社が宅配で上げている収入は、年間1兆7500億円。
そして、新聞社から販売店には、
・配達料:6,500億円
・拡張補助金:1,500億円
合わせて8000億円が支払われている。
実に宅配による収入の45.7%を占める。
これを削減すれば、確かに新聞も安くなるし、新聞社の利益も上がりそうな気がする。
だが、本当にそれは可能なのだろうか?
新聞販売店に流れていた8,000億円が消えると、それだけでなく折り込み広告の市場約6
,000億円も消えるだろう。(折り込み広告の市場は、テレビ広告、ネット広告、新聞に
続く第4位の規模がある。)
都合1兆4,000億円の市場が無くなることになり、これは日本の工作機械市場以上の規模
である。
さらに40万人とも言われる販売店従業員と関連業界の雇用の問題がある。
これだけの規模の市場と従事者が壊滅的なダメージを受けるようなことを新聞社が出来
るだろうか?
日本の新聞社は、宅配制度に支えられている。
これこそが数百万部の規模を維持出来る理由でもある。
もしどこかが「バーンズ&ノーブル」みたいなことをやろうと思っても、最初に言い出
したら最後、販売店の猛反発を受けて、不取り扱いにつながるだろう。
電子版が今と同じ収益を上げられるまで、新聞社の体力が持てば実現出来るかも知れな
いが、間違いなくそんな冒険をするところはないだろう。
電子書籍、電子新聞の未来を語るものは、このような背景も考えるべきである。
(往々にして、一面的なものの見方しかしていない。)
もし本気で実現したいと考えるのならば、この問題をクリアにしなければ、大手全国紙
が宅配制度を廃止し、電子化に乗り出すことは永遠にないだろう。
単に電子端末を配って、電子新聞を配信すればいいだけの話ではないのだ。
もし実現の動きがあるとすれば、2つのパターンがあると考えている。
ひとつは、大手全国紙とのしがらみが少ない海外通信社と中堅国内通信社系の情報を集
めて異業種が新規に電子新聞を創刊する形、もうひとつは大手全国紙が別ブランドで電
子新聞を出すようなものだろう。
前者は無料新聞のスキームで、後者はLCC(格安航空会社)のそれである。
産業構造が激変している中にあって、この業界がこのままの姿で今後続くとは思えない
。
いずれそう遠くない未来に大きな変化が到来するのは間違いない。
温暖化で北極の氷山が消え、シベリアの永久凍土が溶けていくような感じで、変化が見
えだした時には止められないというような感じで変わっていくだろう。
その時に自分がどういう形で関われるかを日々考えを巡らせている。
「観客」として見ているのはおもしろくないし、実にもったいないことだ。
エンターブレイン
売り上げランキング: 194897
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント